玉の輿へ挑戦【女性向け恋愛コーチング25話】
前回のお話:玉の輿に乗るには【女性向け恋愛コーチング24話】
女性結婚相談員が一旦お見合いルームから出ていって夢子は次のお見合い相手が入ってくるのを待っていた。
事前情報では中小企業の二代目社長で収入的にはかなり上に位置する相手との事で、とにかく頑張ってみようと思った。
ただ本当の上流社会の住民は町の結婚相談所に入会する事もなく、そういった男性と一般庶民の女性が出会うチャンスは皆無に等しく、玉の輿に乗る方法は現実的にはないという事で、いまから会う男性が限度という言葉には、別に玉の輿を夢見ていたわけでは無いのだが、やっぱり現実は厳しいと思った。
とにかく最初の5秒で最高の笑顔を相手に見せようと思っていたらドアがノックされた。
さっきの時と同じように先に女性結婚相談員、そして夢子のお見合い相手が入ってきた。
間違いなく確か45歳と聞いていた相手だったが、細身でスーツが似合う男性は10歳以上は若く見えた。
思わず相手の顔を凝視していた夢子は慌てて笑顔を作って挨拶をした。
「はじめまして夢子と申します。」
一応自分としては最高の笑顔を添えながら、当たって砕けろ作戦で先日の婚活セミナーで伝授された事をを試してみようとボディタッチの口実とコツを一生懸命思い出していた。
席につくと男性は自分から自己紹介をした。
「はじめまして、村田進と申します。
生まれも育ちも成田市で親父が経営する会社の社長という事になっていますが、まぁ実情はオヤジの仕事を手伝っている家事手伝いって感じですよ。」
そう自己紹介してニッコリ笑った。
そして手が届く場所に男性にしてはとても白く繊細で仕事をしていないような女性的な手があり、ブランドは全く分からなかったが高級そうな時計が巻き付いていた。
夢子は勇気を出して相手の手を取って口を開いた。
「村田さんはスーツがとても似合ってますし、この時計もとっても素敵で似合ってますよ!」
生まれて初めて男性にボディタッチした夢子の声は上ずっていたが、それでも自分でも行動できた事に自分でも驚いた。
村田さんは笑顔のまま優しく答えてくれた。
「技術提携しているドイツの食品工場の視察にでかけた時に、記念品として貰ったもので気に入ったので修理を何度かしましたけど20年以上使っているんですよ。」
相手に引かれたらどうしようかと不安もあったが、自然に答えてくれてホッとしながらそっと手を離した。
「お仕事の関係で海外に出かけられる事も多いんですか?
良いですね!」
「親父が飛行機に乗りたくないって理由で代わりに私を行かせるんですよ、会社も実質会長のオヤジが切り盛りしていますし、単に名代に行かせるために便宜上という事で私に社長を名乗らせているって感じなんですよね」
一回のお見合いNG男とは全然違って自分を良く見せようとか大きく見せようと言った感じが全然なくて好感が持てた。
「お互いの紹介は自己紹介していただいたようですので、私は一度席を外しますね」
といって結婚相談員は部屋から出ていってお見合いルームは2人きりの状態になった。
「結婚しないまま45歳になってしまいまして、仕事も実際は家事手伝いでしてすいませんです。
夢子さん的にこの年令でも構わないんですか?」
自分で想定していた質問にこれは無かったので咄嗟に首を横に振って”いいえ”とだけ答えた後に、もう少し気の利いた返事が出来なかったのかと思った。
家事手伝いの方と結婚じゃ格下婚ですねとでも言えば良かったかなと一瞬思った。
「実は趣味と言えるほどのものはなにもないですし、経営している会社の方も親父が元気なうちは堅実にやっていけると思いますけど、私が後を引き継いでやるとなるとどうなるかはわからないと自分で思っているんですよ。
何の苦労も努力もなく単に血縁だって事だけで就任した典型的な二代目社長のですからね。
この歳まで結婚しなかった理由もですね、なにか積極的な理由があったわけでも何でもなくて、まだ家庭をもって身を固めるのが億劫だっただけなんですよ。
でも流石に周りの結婚に対する圧力が限界点を超えてしまったようで、仕方がないので結婚相談所に登録したり、お見合いパーティーに顔を出したりしていますけど、中々難しいですよね?」
顔も中々整っているし話すことも控えめで大人しい性格で、これで相手が見つからないとは思えないので、こう見えても相手の女性に求めるものが高いのかと勝手に推測した。
「村田さんは休みの日はどうやって過ごす事が多いですか?」
無趣味な男性がどんな休日を過ごすのかとても興味があったので出た質問だった。
「友達すらいないですし昔は本を読む事が多かったのですが、老眼が出てきて厳しくなって来ましたし、土曜日はなんとなく会社に行って残っている仕事、といっても雑用ばかりですけど、そんな感じで時間を潰して日曜日は洗濯したり買い物に行っておしまいですよ。」
何か共通の話題を見つけ出したいと思った夢子だったがこれは難しいと思った。
ドアがノックされて男性の結婚相談員が入ってきた。
「ではいったん村田さんは別室に移動願います。」
入れ替わりに女性相談員が入ってきて扉が閉じるのを確かめてから口を開いた。
「どうでした?」
「私には勿体無いような方で良い人だと思いました。」
「じゃあもう少し話をしたいって事でいいですね、延長戦希望って事で相手に伝えてきますから少し待っていて下さい。」
そう告げると部屋から出ていったので、お見合いルームの中で一人待つことになった夢子は、村田さんは自分の事を気に入ってくれたかどうか、だけが気がかりだった
村田さんは中々戻ってこなかった、もしかしたらNGだから上手な断りの文句を考えているのか、女性結婚相談員さんが一生懸命説得してくれているのか、駄目なら駄目で早く教えて欲しいと思ったり、いきなりのボディタッチは逆効果だったのかとかいろいろ考えているうちにドアがノックされて村田さんが一人で入ってきた。
「いつも少しお話した段階で断ってしまうのですけど、いきなり私の手を取るような積極的な女性は初めてだったので、延長について聞かれて直ぐにお願いしたんですよ。
けど自分から話をする話題もなくて、どうすれば良いのか分からなかったから相談員さんにアドバイスを受けていたら時間使ってしまって遅くなりました。」
「どんなアドバイスを貰ったんですか?」
「お互いいい大人なんだし遠慮しないで聞きたいことを聞けば良いと言われました。
で早速ですがズバリ質問します、仮に私と一緒になったら子供は何人ほしいですか?」
夢子は結婚したら自然に子供が出来る位にしか考えていなかった。
「頑張れればたくさん作りたいと思いますけど年齢的には2人が精一杯じゃないですかね、すいません。」
「私は子供が多くても少なくても、たとえ居なくても楽しい家庭なら良いと思ってますけど、親父が会社は世襲制でバトンタッチさせていきたいみたいで、男の子を最低でも2人ほしいって普段から言ってるんですよ。」
「じゃ私じゃ結婚相手として難しいみたいですね?」
村田さんの顔から急に笑顔が消えてキッパリとした真顔でキッパリと言った。
「それは親父の考えであって私の考えとは違いますから、子供について私のこだわりは特に無いですから。」
しまった!失敗した!と夢子は思った、質問の前に村田さんは自分の考えをはっきり言っていて、まるで親の言いなりみたいな捉え方をした返答をした事を反省て早く話題を変えようと思って、さっき聞いた村田さんが無趣味というところを突破口にしようというアイデアが浮かんだ。
「実はプロフィールには料理とか手芸とか書いてあったと思いますけど、私も本当のところは趣味といったものはなくて、休みの日はなんとなく外をブラブラするくらいで、何か趣味を作らなきゃと思っても簡単じゃないですよね?」
「そうですよね、えっと正直に話しちゃいますけど実はとある趣味が有るのですが、婚活に不利だって事で言わないようにアドバイスされているんですけど、夢子さんと波長が合いそうなので話しちゃいます。」
と言って村田さんは1枚の写真を机の上に置いた。
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